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雖然知道但無法停止
by haruhico
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古武術とカステラとカツ丼
毎度書いているが、ここ数年映画は年に1本見ればいい方だったのだが、結果として去年は3本見ることになった。

年も押し迫った仕事納めの日。午前中大掃除の後、軽くビールを飲みながら昼食を取り、そそくさと渋谷に向かった。本当は「あきば理容」で髪を切ってから行きたかったのだが、14:30の次が19:00というふざけたスケジュール(上映時間は90分)なので、渋谷に直行。

何を見に行ったのかというと、「甲野善紀身体操作術」というドキュメンタリー映画。甲野善紀氏という古武術研究家に関わった数人からのインタビュー(中心は岡田慎一郎氏、名越康文氏、中島章夫氏、足立真穂女史の4人)と甲野氏自身へのインタビューと研究会の様子の映像をまとめたもの。

甲野氏を知ったのは10年以上前に「近代麻雀ゴールド」という麻雀劇画誌に連載されていた「マル秘牌の音ストーリーズ」という漫画だった。最初は話題の中心である桜井"マギー司郎"章一に興味を抱く古武術研究家というスタンスでの登場だったが、作者のみやわき氏と甲野氏が共通の趣味を多く持っていたため意気投合し、連載の中で甲野氏の術理(「井桁術理」を発見した当時)の解説まで行われていた。

読んだ当初は何となく分かったような分からないような感じだったが、甲野善紀という人物に興味を持って、その後何冊か著作を読んでいた。その中で、日本人の身体の運用法が明治維新を境にがらっと変わってしまっているという指摘に大変感銘を受けた。

例えば、「走る」という動作は江戸時代以前では"特殊能力"であって、一般庶民は速く走ることができなかったという(cf.「古武術の発見」P.78)。古い絵を見ると火事噴火といった非常時に逃げまどう際も、当時の庶民は両手を前や上に掲げて(火事の図の真ん中あたりが特に顕著)逃げていることが分かる。両腕を振って(=身体をねじって)走るという動作は明治維新以降、西洋式の軍事教練を通じて日本人にもたらされたと甲野氏は言う。それがいわゆる「ためない、ねじらない、うねらない」の三原則に通じている。

しばらくして体を鍛えるために柔道や合気道をやっている友人から甲野氏の名前が出て驚いた。彼も興味を持っていたらしくて何冊か著作を読ませると彼なりに術理を解釈していくつかの技を私相手に使えるようになっていた。そんなことをしている間に桑田真澄の復活劇によって甲野氏が表舞台へ引っ張り出され、あちこちで講演を行うようになったので、友人も甲野氏の技を実体験する機会を得た。帰ってきて曰く、何がなんだか分からないうちに技をかけられた、と彼も甲野氏の技を体験した人が異口同音に言う感想を口にした。

だから、世間一般の甲野氏に全く接点のない人よりも、多少なりともその術理の真実味を分かっているつもりである。

あらかじめ、HPを見て、キャパは30人程度、著書を持参すると300円割引という調べも付いている。「武術で知る心身不離の世界」(合気ニュース)や「人との出会いが武術を拓く」(壮神社)といった初期のマニアックな本を持っていこうかとも思ったが、新本で買って未読の「武術を語る」(徳間文庫)にした。

まさか、あるとは思わなかったが、映画を見に行く前のお約束として前田有一の超映画批評をのぞいたら、40点(笑)。ただしよく読むと、一見さん視点なので、自分の感じ方とは多分違うであろう。

渋谷駅を降りて109を右手に曲がり東急本店の横の細い道を進む。およそ映画館とは縁がなさそうな通りである。ローソンの手前らしいのでローソンの看板を探して歩くと何の変哲もない建物の中がそうらしい。とりあえず外にポスターが出ている。
古武術とカステラとカツ丼_a0001324_033661.jpg

入ってすぐがエレベーターで2階に上がる。出ると狭い通路に4人ほど並んでいる。まだ上映時間まで20分もあるのに。後から階段を上がってきた人が数人。前の兄ちゃんは近著の「武学探究 巻之二」(冬弓舎)を持っていた。なかなか通だ。

10分ほど並んでいると、係員が出てきて「整理番号1番から10番の方~」と呼び出す。列の前と後ろからゾロゾロと入り出す。ええっ!整理券があるなんて聞いてないよ~!(正確に言うとHPで見て知っていたが忘れていた・笑)

中に入って驚いたのは椅子の種類がバラバラなこと。真ん中の席が空いていたので座ろうとしたが、どうも落ち着かないので脇のガッチリした椅子に座る。腰のあたりにクッションがあってまずまずの座り心地。見渡すと女性が5,6名で他は全て男性。時間帯のせいもあって予想外にお年寄りが多い。上映開始時点では空席もあったが、上演中(しかも相当進んだ頃・笑)にも何人か入ってきてだいたい満席になった。

甲野氏が写っている場面と写っていない場面が半々か4:6くらいの感じ。甲野氏の「随感録」(日記)の愛読者なので何度も名前が出てくる岡田氏や中島氏を初めて見る。名越氏は「グータン」などで既に見ており、胡散臭いオッサンやなぁ、という印象を今回更に強くした。岡田氏が想像以上若いのには驚く。甲野氏絶賛の敏腕編集者の足立女史もバリバリのキャリアウーマンを想像していただけに別の意味で驚く。

前田氏が危惧しているとおり、メインに話す4人が全て"甲野氏側の人"なので、波の下だの四方輪だの平蜘蛛返しといった術語がバンバン飛び交う。ちょっと甲野氏に興味を持った程度の人が見に行ってもチンプンカンプンだろう(言わんとしていることが伝わらないわけではないが)。インタビュワーである監督がもっとこっち側に立たないと、甲野氏の術理を広く知らしめたいという意図は実現しないだろう。

あと前の席のど真ん中に座高の高い人間が座ったので、字幕がよく見えずに往生した。そうでなくてもこの監督は字幕の使い方が下手で、ちゃんと聞き取れてわざわざ起こす必要のない字幕を出したり、聞き取りづらくて字幕の欲しいところに出なかったりする。ナレーションを省いているのだから場面場面で説明の字幕が必要なのに、下の真ん中に集中しているために頭を動かさざるを得なくてその度ごとに集中力が殺がれた。和風の内容からして、字幕を右側に縦書きするのが筋だと思うが、そうしないのはセンスの問題か。

最悪だったのは手裏剣術の撮影方法で、甲野氏の手元だけ映して肝心の手裏剣の軌跡は3回に1回(それも偶然に)しか映らない。これでは甲野氏がなぜ手裏剣に拘るのか、あの距離から打つことの難しさや、巷間言われている手裏剣術の誤りなどが全然伝わらない。甲野氏の技自体、以前NHKの人間講座を録画してコマ送りしても動きが分からないほどなのだから、細かな部分をいくらアップしてもムダで、もっと大所高所から撮って欲しかった。

ドキュメンタリーということで、フェンシングやラグビーや合気道や総合格闘技の選手たちが手もなく甲野氏に捻られるシーンも淡々と描かれていて(体格差のあるラグビーのコーチ陣のリアクションが一番面白い)、随感録に書かれている事が嘘やハッタリではないことが伝わる。

甲野氏の発言では、「今のスポーツは鍛えようとして逆に身体を壊している。本来鍛えるとは壊れないようにすることではないか」というのが一番分かりやすく興味深い。古武術で復活した桑田の相方の某番長はこの言葉をどう聞くか

スポーツ以外にもフルートの演奏姿勢や介護の抱き起こし方などに応用するシーンもあり、見ていると固定観念に対する疑問や広い問題意識を持たされる。

活字でしか甲野氏を知らない人間にとって、技が効く瞬間とはどういうモノなのかが分かるという評価はできるが、ドキュメンタリーとしては前田氏同様辛い点を付けざるを得ない。見るとしたらせめて一冊くらいは著作を読んで(その本を持って・笑)見に行くべきだろう。

映画が終わると4時。ブックファーストで参考書の棚を物色。絶版と思っていた本が結構現役でガッカリ。

その足で秋葉原へ。駅についてアキハバラデパートの閉店まであと3日しかないことに気づく。明日はのんびりしたいし、明後日は冬コミ3日目で閉店時間までに来るのはほぼ不可能。よって夕飯直前だというのに伊呂波へ向かう。

入ってすぐの物産展でアキハバラ土産を扱っていて、なぜか置かれている「誕生晋ちゃんまんじゅう」といつの間に出来たのか「太郎ちゃんの牛乳カステラ」にビビる。さすがに会社へのお土産にこれを買うわけにも行かず断念。

伊呂波はこの時間でもほぼ満席なのだが、空いた席に座ると「今日はもうカツ丼しかないんですよ」の一言。

な、なんだってぇー!

私の青春は伊呂波の「きじ丼」(現「とり丼」)とダニエルの「たこ焼」一色だったというのに、ダニエル亡き今、「きじ丼」すら食べられないなんてorz。

「明日また来てください」と言われてもねぇ。仕方ないので「カツ丼」を注文する。
古武術とカステラとカツ丼_a0001324_045085.jpg

490円という値段を考えると十分旨いのだが、やはり不全感は残る。最後に「きじ丼」を食べたのはいつのことだろうか。何かここのところ食べに来るといつも品切れでカツ丼を食べているような気がする(泣)。また一つ青春の思い出の味が消えていく。
by haruhico | 2007-01-03 23:52 | 書評
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